看護師に求められる厳しい感情のコントロール

肉体労働や頭脳労働に対して、感情労働という分類があります。
自分の感情をコントロールしながら、職務をこなすことを「感情労働」というわけです。
感情労働は、どの分野の職業にも存在して、なかなかやっかいなストレス性のたかい労働といえます。

ただし、感情労働だけで職務を遂行できるわけではありません。
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肉体労働+感情労働、頭脳労働(デスクワークなど)+感情労働、肉体労働+頭脳労働+感情労働の三つ巴だったりします。

看護師も、感情労働をしています。そして、三つの労働が複雑にからまって総合力が求められます。
なぜ、感情労働という概念ができたのか、看護師の感情労働とはどんなものなのか・・・について、述べたいと思います。

白衣の天使から感情労働者へ!!

naitingail ナイチンゲールのような偉大な先人により看護師が「白衣の天使」として描かれ、微笑みを絶やさずに献身的で無償の愛の提供者だというイメージでとらえられてきた。
現代でも、「白衣の天使」という一面を要求される現実がある。
でも、イメージはともあれ、看護師だって人間である。腹が立つこともあるし、泣きたいときだってあるのに、患者さんの前ではそういう感情をできるだけみせないようにしつけられ、いわゆる看護師らしい看護師に仕上げられていく。

そうしなければ、さまざまなケアニーズをもつ患者さんに提供している看護ケアの品質が下がると考えられているからです。このような、ある意味、内面の感情を伏せて、看護師らしい演技で看護ケアをする。これを、ホックシールドは「感情労働」と呼びました。
賃金と引き換えに売られる感情労働は、商品価値を有している、とホックシールドは定義しています。

感情労働が求められる職業の3つの特徴

感情労働が求められる職業には3つの特徴があると言われています。
1つ目
対面あるいは声による顧客との接触がある。
2つ目
感情労働従事者は、他の人に何らかの感情変化(感謝の念や憤り、恐怖心など)を起こす
3つ目
感情労働者の雇用者は、研修や管理体制を通じて労働者の感情活動をある程度支配する。

この3つの特徴をふまえて、職業を考えると、窓口や、電話による相談、クレーム処理関係、などが頭にうかぶ。
また、介護士、看護師、などもそうであろう。

ある年のアメリカの国勢調査で、標準職業分類に基づけば、アメリカで働く人の3分の1以上が感情労働に従事しているというから、ホックシールドの調査結果には汎用性があると思われる。

看護師の場合の感情労働

看護師は援助専門職として人に関わる仕事であり、対象となる人々の心身の状態や変化をモニタリングしながら、安心・安楽を提供している1つ目の特徴
疾病をを抱えている状況の中にあっても、この病院に入院してよかったとか、病気になった自分と向き合えるようになれたというように、少しでも肯定的になれるように気を配っているのである。2つ目の特徴

一人の人間の「部分」ではなく、感情や社会的背景をも含めた「全体」としてケアするという看護の仕事は、まさに感情労働に他ならない。そしてオリエンテーション時や、コミュニケーションや接遇などの研修機会を通して、組織的に感情労働に磨きをかけるべく継続的な教育が行われるため、3つ目の特徴も該当する。

看護などの専門職に求められる厳しい感情コントロール

専門職の感情労働は、職業に応じて感情をどのようにコントロールすべきか、適切な感情とはどのようなものかといったような意識的・無意識的な基準がある。これはホックシールドによって感情規則と呼ばれているものだが、特に、専門職の感情規則は、専門職の規律や訓練の中に埋め込まれており、良識や客観性を備え、感情を超越することが大事にされている。

個人的な感情がどれほどのものであろうとも、それを冷静にコントロールしたり、クライアントや患者に共感を示したりすることが求められるため、専門職には一般的な顧客サービス業よりも広範で、なおかつ厳しい感情作業が必要になる。

ネガディブな感情との付き合い方

看護師は基本的に、人の役に立ちたいとか、人に関わる仕事がしたいという志向をもっているj。そのため、看護の仕事が感情労働であるかどうかがここでの論点でゃない。問題は、感情労働が、深層演技と呼ばれる本人も気づかない深いレベルの演技で成り立っており、その演技がうまくできないと、(感情のコントロールができないと)、自他ともに、「ダメな看護師」と評されてしまうことだ。

看護師のグループで「倫理」の研修をしていたときのことである。参加者に日常的に倫理課題だと思うことを挙げてくださいというと、
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「こんな下品な患者さんは早く退院してほしいと思いながらケアしてしまっている」
「認知症の患者さんはなるべく入院してこないでほしいと願っている」

といった発言が聞かれた。
たしかに、このような胸の内は公にできる内容ではないが、そのように感じてしまう自分の感情を倫理問題ととらえる感性は、看護師に埋め込まれた感情抑制に基づいた深層演技がうまくできていないことへの反省から生じている。

「勤務室で患者の悪口をいって憂さを晴らしたり、涙をこらえて何も感じないふりをしたり」といった感情管理は、「看護という仕事の中で必要不可欠な部分」だと述べて看護の仕事に感情管理がつきものだということが全く理解されていないことに、光を当てた研究者もいる。

個人としての素直な感情と、看護師としての見せるべき態度が整合しないときに、プロフェッショナルとして前者を封印するのは当然だが、そのことに罪の意識や倫理的な問題を感じてしまうと、仕事として成立させるのが難しくなる。

新人看護師のリアリティ・ショックの一つに、「医療専門職のイメージと実際の言動とのギャップ」というのがあった。これは、学生時代には想像もつかないような患者さんへの悪口や横柄な態度が医療者にみられて、新人が愕然とするさまをいうのだが、現場では感情表出がいたるところで行われているということだ。

患者に対してネガティブな感情をもってしまうことを、カンファレンスや勉強会などの場で話し合ったり、共存したりすることが必要と思われるが、感情を「外にあらわすことは、不適切だとする感情規則があるため、強い感情がわくたびに、その感情をなんとか自分で管理しようとするから、なかなか公の場で話あわれることはない。

だから、憂さ晴らしや悪口という形に変わって表出される(もちろん一部の人だが)。感情をマネジメントすることが仕事(感情労働)だからこそ、自然にのぼってくる感情について、プロフェッショナルとしてもっと話合われるべきだと思う。

感情マネジメントとキャリア

さて、なぜ「感情労働」が「看護師のキャリア」・・・の問題に結びつくのか。
それは、簡潔に言えば、感情をうまくマネジメントできないと看護師を続けることが苦しくなるということだ。
このことを感情労働と自分との関係性という視点からホックシールドが分析を行っている。

1つ目は自分と自分の仕事とが一体化されてしまうという問題だ。

患者さんが外来の待ち時間が長いと不満を言うとき、それは大抵、医師の診察が長引いていたり予約システムの運用が問題だったりする。しかし、不満の矛先を向けられた看護師は、あたかも自分が至らなかったように感じることがあるだろう。ホックシールドによると、そのような人は、状況とその状況に一体化させている自分とを分ける事、すなわち脱個人化する能力を発達させる必要があるという。

二つ目は、働きかける相手と気持ちがそぐわないという問題だ。

日勤で沢山の患者さんを看ていると、心を込めたケアをしたいと思っていても、取り繕った表層演技しかできない。そんなとき、自分は患者さんに申し訳ないことをしていると捉えてばかりではつらい。心からケアしたいと望んでいるが、時間や人数の制約などから、看護師として心を込めた態度を常にとれるわけではないことを認める必要があろう。

3つ目は、気持ちがそぐわない相手に対して、自分の本当の気持を押さえて演技を行うとき、自尊心を維持する事が出来るだろうかという問題だ。

病棟には不特定多数の患者さんが入れ替わり立ち代わり入院してくる。
そのすべての人に対して、看護師の感情規則に従ったふるまいをすべきだと自分に命じ続けるのは難しい。

その命令が過剰になると、仕事を自分から切り離してしまい、仕事上で何が起きても真剣にとらえないようになるか、表層演技をすることさえも拒んで引きこもるようになるといった対処行動に出るようになるとホックシールドは指摘する。そうならば、いったん仕事と自分との距離をとり、自分のしている仕事を客観的に評価する視点をもつことが肝要であろう。

感情労働が、人間の心理的コストに支払う代償がおおきいことに警鐘が鳴らされている。仕事に献身的になりすぎると燃え尽きてしまうし、自分と自分の職務を切り離して表層演技の達人になれば、ごまかしの自分を不愉快に感じてしまう。

だからといって、演技することを職務だと割り切ってしまうと、自分の仕事はどうせこういう仕事なのだと皮肉っぽくなる。

看護の仕事は感情マネジメントの連続である。どうすれば、自分らしさを失わずに看護ができるのか(看護師になれるのか)という問題提起は、看護師としての自分にどう向き合っていくのかというキャリア上の大きな問いでもある。

まとめ

看護師は専門職のひとつ。肉体労働、頭脳労働、感情労働と三位一体の労働が要求され、とくに看護ケアの性質上、患者とのかかわりで、患者が前向きになってくれると看護師の心理もポジティブになれるが、病を患って入院してくるわけなので、ネガティブ思考に陥られ、暴言やケアを拒否されたりと、対応に気持ちがいっぱいいっぱいになってしまう事が多々ある。

そういうときは感情演技が求められるわけだが、それは「看護という職業の必要不可欠な対応である」と、認めることがネガティブ感情をコントロールする近道だと思う。

家族の介護と違って、交代勤務があるので、すこし距離をおいて、冷静になる時間ももてます。どうか 看護師初心者はたまたま遭遇した、患者の前とナースステーションでの本音のギャップにリアリティショックを受けるかも知れないが、乗り越えて看護師を続けてほしいものである。

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